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■第12話:自分の楽器を手に入れたけど・・・
 楽器をやる為には、先ず楽器がなければならない。初めのうちは友人からの借り物の楽器を使っていたが、借り物であるのが故にいずれ返さねばならず、早晩自分で楽器を買わなくては、と思っていた。当時は現在の様に沢山楽器のメーカーがある訳ではなく、外国製の本物を買うか、日本製のコピーモデルを買うか、事実上選択肢はこの2つしかなかったのだ。極く一部の例外を除いて、フェンダーやギブソンの本物を買う事は値段が高過ぎて無理だった。実際は本物のフェンダーやギブソンの楽器を持っている奴も居ないでもなかった。武蔵大の友人で本物のフェンダーのギターを持っている奴が居るというので、わざわざ家まで見に行った事がある。その友人はそのギターを床の間に飾っているという噂があったが、家に行ってみると本当に床の間に置いてあって驚いた。話を聞いたら、彼は親に買ってもらったという事で、とても羨ましかったが、自分にはそんな高価な本物はまだ必要ないとも思ったのも事実だ。下手糞の癖に楽器だけは高い物を持っていたってカッコ悪いじゃないか。勿論うちの親が自分に楽器を買ってくれる等という事は天地がひっくり返ってもあり得ないし、これは安物の楽器であったとしても事情は同じだ。親にしてみれば、僧侶になると言って家を飛び出して行った奴が今度は音楽をやると言っているのだ。到底承服出来ない。例え安物の楽器だったとしても買ってやれる訳がなかった。親に少しでも文句を言わせない為にも、あまり無理しない程度の範囲内で自分で買えるぐらいの値段の物で良いと思っていたのである。
実を言うと、値段の問題ではなく、フェンダーやギブソンの本物は恐れ多くて持てない、という気分もあった。後から考えて見ると、当時思いきり頑張れば買えたかもしれない値段だったし、実際高校生の時にバイトで稼いだ金でフェンダーのベースを買ったという知り合いもいる。しかし、やはり本物を持っていて下手だとカッコ悪いし、恐れ多いし、それから本当の事を言うとフェンダーやギブソンのベースの値段がいくらなのかも良く知らなかったのだ。高いという事は知っていたが、どうせ買わないので自分には関係のない事だったのである。フェンダーやギブソンの事はともかく、楽器は入手しなければならない。そうこうしているうちに、前に書いた田辺君という友人が高校の時にはベースをやっていたが、今度はギターをやるという事になって、私にベースを譲ってくれると言う。これは丁度良いという事で、やっと私は自分の楽器を入手したのだ。フェンダーのジャズベースの形をした日本製のコピーモデルで、私にも手ごろな値段だった。本当の事を言うと、私は内心密かに、ギブソンのEBベースというものがあるのだが、それを良いなぁと思っていたのだ。本物のギブソンでないにしても、EBベースのコピーモデルが欲しかった。その理由といえば、私がベースを始めるキッカケになったクリームというバンドのベーシストであるジャック・ブルースがEBベースを弾いていたからに他ならない。『クロスロード』で聴いたあのストロングなブリブリベースの音を私も出したいと思ったのである。それに当時はプロアマを問わず、殆どのエレクトリックベースプレイヤーがフェンダーの形をした楽器を使用していた。一部の例外はあるものの、大雑把に言ってプロは本物、アマはコピーモデルという違いはあるにせよ、フェンダーの形をしていないベースを使用しているプレイヤーは殆ど見た事がなかったのだ。そこで天邪鬼である私は、皆が使っていない形の楽器を使いたいと思った、という理由もある。因みに当時は、外国のミュージシャンの“動いているところ”を目にするチャンスは非常に少なく、テレビではNHKでたまに『ヤングミュージックショウ』という番組(その前には“ポップスインピクチャー”という番組もあった)をやっていて、それで目にする程度だったので、私のような初心者にはレコードを聴いているだけでは解らないことが多く、フェンダーの音だと思っていてら実はギブソンだった、或いは全く違うメーカーの物だったとか、甚だしい場合にはギターだと思って聴いていたのが実はベースだったり、その逆だったり、カンケイないが女性ボーカルと思って聴いていたのが実は男だった、等というような事が後になって発覚する事が多々あったが、これも当時の情報不足の為せる業であった。(映像を見ても、男か女かわからないものもあったが・・)

 とにかく自分の楽器を手にした私であったが、楽器そのものは当時の私には十分な良いものであったにも拘らず、私は何か飽き足らなかった。形は極くスタンダードなもの、悪く言えばありきたりなものである。どうにかならないものかと思っていた時、あるレコードを偶々聴いたのだ。『ロックフロム フリー クリーク』というオムニバス盤である。この中に『チェリー ピッカー』という曲が入っていて、スチュウッズというベーシストが弾きまくっているのである。何やらベースが変わった音をしている。友人に聞いたところ、「これはフレットレスベースだ」という事だった。エレクトリックベースであるにも拘らずウッドベースのような音なのだ。これは面白いと思い、すぐに現金を工面して自分のベースのネックをフレットレスのネックに変えたのである。自分のベースはフェンダーのジャズベースのコピーモデルであるが、フェンダーのカタログを見てもジャズベースのフレットレス仕様のものは載っていない。これぞ世界で1本だけのベースだ、等と思ってザマァミロという感じだった。実はこの当時、アメリカにウェザーリポートというバンドがあって、このバンドのベーシストであるジャコ・パストリアスが自分で改造したフレットレスのジャズベースを弾きまくって、音楽界に旋風を巻き起こしていたのだが、私はまだウェザーリポートというバンドを知らなかったので、ひとりで得意になっていた訳だ。全く、モノを知らない奴というのはしょうがない。おまけにヘッドの部分に元々あったロゴを消して、フェンダーではつまらないので「ギブソン」と書きこみ、友達に自慢する始末。中には騙されて「おおー!ギブソンにもジャズベースがあるのか」なんて言う奴も居て面白かった。この少し後、私は本物のギブソンのベースを手にする事になるのだが、ここから先は次回に。

2004/02/23 戻る