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■第10話:持つべきものは"親切な友人"です。
 私が東京で入学した和光大学は非常に自由な学風であり、また趣味で音楽をやっている学生がたくさん居る学校でもあった。音楽関係のクラブもいくつかあったので、そのうちのひとつに入る事にした。和光大でも何かバンドが出来れば、と思ったのである。またそのクラブとは関係無しに、音楽好きというか、私よりもはるかに音楽に詳しい友人が何人か出来た。考えてみたら、彼らが音楽に詳しいというよりも私の方が音楽、つまりロックやジャズについて何も知らなかったという方が当たっている。いわゆるロックバンドではフォーカスとレッドツェッペリン、そしてクリームぐらいしか知らない私には、彼等同志が話している時に次々と出てくるバンド名やアルバムのタイトル、曲名などは知らないものばかりであった。私が困っていると、友人の1人が1本のカセットテープをくれたのである。ロックの大有名曲、これを知らなければモグリだという曲ばかりを、自身が持っているレコードからカセットにダビングしてくれたのだ。この田辺君という友人にも深く感謝している。
さてクラブにも入り、バンドをやろうと思ったが、まずメンバーがなかなか見つからない。ドラムを叩く人間がいないのだ。ギターは田辺君がやってくれる事になったが、ギターとベースだけではなかなかロックをやるのは難しい。ギターをやる友人は他にも出来たが、それこそギタリストばかり居ても仕方がないのだ。都合のいい時間帯に使っていない教室を借りて、クラブ所有のアンプを運んで練習する訳だが、これがえらく面倒である。また、教室が空いていてもアンプが借りられなかったり、その逆だったり、スムーズに練習をするには程遠い状況であった。自然と和光大ではあまり音楽をやらず、牧田君のいる武蔵大の方でバンドをやる事の方が多くなった。武蔵大のクラブには、まるでゴミ捨て場のように汚いながらも、一応部室がある。部室を借りることも比較的容易に出来るようであった。

 武蔵大で本格的に(と言っても全然大した事はないが)バンドの練習をする事にした私は、色々な曲をコピーしなくては、と考えたが、何の曲をコピーすれば良いのか判らず、それ以前に欲しいレコードがあっても何枚も買える程現金の持ち合わせが無かったのだ。すると田辺君が、自分が住んでいる団地に月2〜3回、レコード屋が売れ残りのレコードをダンボールの箱に入れて大安売りに来る、という情報を教えてくれた。早速大安売りの日に芋生君や牧田君と行ってみると、確かにレコードが大量に売られている。しかもLPが1枚100円である。大部分が演歌や歌謡曲だったが、ジャズやロックのレコードも少しだけあったので、とりあえず買えるだけ買った。何しろ1枚100円なので、"買えるだけ"というのは"金額的に買えるだけ"という意味ではなく、"重さ的に持って帰れる枚数"という意味である。芋生君や牧田君はロックやジャズのレコードを沢山(私に言わせれば)持っていて色々と詳しいので、「このレコードは絶対に買った方がいい」とか「これはよく知らないが、誰それがギターを弾いているので良い筈だ」とか色々な事を教えてくれたが、彼等が知らなくても、ジャケットを見てロックかジャズに違いないと思ったものは全部買うことにした。この時闇雲に買いまくったレコードは、友人に貸したまま行方不明になった物意外は、今でも全部持っている。このレコード大安売りがあったお陰で沢山のロックやジャズの曲を知ることが出来て、私は本当にラッキーだったと思う。ロックやジャズといっても色々な種類の物があるが、この当時知識がゼロだったお陰で、ひとつのジャンルにとらわれる事無く様々なものを聴けたのも良かったのではないかという気がする。ただ、この時買ったレコード全部が面白かった訳ではなかった。中には何だか訳のわからないものや、こいつらもしかしたら非常に下手なのではないかというような疑念を抱かせるものや、何度聴いても演奏を間違っているとしか思えないものさえあった。だから芋生君や牧田君にレコードを借りる事も多かったのである。芋生君はどちらかというとアメリカンロック、及びブリティッシュロック、牧田君はブリティッシュロックやプログレ、それにジャズをよく知っていた。ECMレコードというものを教えてくれたのも牧田君だ。ジャズといっても、恐らくヨーロッパ系のものに主に興味があったのだろう。この2人が貸してくれたレコードには面白いものも、そうでないものも色々あったが、最初はよくわからなくても、聴いているうちに段々面白くなる、というものも沢山あった。キングクリムゾンというイギリスのロックバンドの「クリムゾンキングの宮殿」もそういうものの中の1枚だった。キングクリムゾンというバンドは、私が決定的な影響を受けたバンドであるが、このアルバムは初めて聴いた時、はっきり言って何が何だかさっぱりわからなかったのだ。ただメチャクチャをやっているだけのように聞こえたりもしたのだが、やがて非常にのめり込むようになったのである。この辺のことは次回に。

2003/12/07 戻る